磁気ヘッドの技術動向

高塚恵治:アルプス電気(株)磁気デバイス営業部

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HDD用GMR薄膜ヘッド

◆はじめに
 近年の高度情報化産業の進展に欠くことができない情報記憶装置のなかで、中心的な役割を担っているものがHDDである。ここでは、その市場動向および重要な機能部品である磁気ヘッドの市場動向、技術動向に関して現状と将来を展望する。



◆HDDの市場動向
 HDDはその全生産量の約90%(2002年予測)がコンピューター用(デスクトップ型、ノートブック型、サーバー)として搭載されており、約10%がPVR(Per―sonalVideoRecorder)や、STB(Set Top Box)、Microsoft XマイナスBoxに代表されるゲーム機器に採用。サイズ的には圧倒的に3.5”サイズが全市場にわたって(市場の約90%、2002年予測)採用されている。2.5”HDDではおもにノートブック型PC、小型の1.8”、あるいは1.0”HDDは、車載用ナビゲーションシステム、デジカメ用記憶メモリー、あるいは最近発売になったApple社のIPadなど音楽用として、その特徴を生かし応用範囲が広まってきており、ますますその重要度とあいまって量的拡大も進んでいる。
 表1は、TrendFocus社(PC用)とITT総研(民生機器用)両社のHDD予測を合算したものであり、今後の拡大が期待できることがわかる。
 HDDは1952年、IBM社がRAMACと名付けた最初のディスクドライブを発売以来技術革新を重ね、現在は3.5”サイズで40GB(メディア両面記録)、2.5”サイズで30GBの容量が主流となっている。小型サイズでは1.8”で15GB、1.0”で1GBのものが市場に投入されており、各社とも次世代機種開発にしのぎを削っている。
 現在、HDD装置製造メーカーは寡占化が進みSeagate社、Maxtor社、Western Digital社、IBMと日立の合弁会社(2002・12月合併)、富士通、東芝および韓国のSamsung社で全世界のHDDのほとんどを作っている。米国、日本で開発し、生産はフィリピン、シンガポール、タイランド、マレーシア、インドネシアおよび中国など、すべてアジア地域が担当している。今後中国のウエイトがますます大きくなることが予想される。
 この技術革新を支えるHDD技術としては
(1)高記録再生密度を達成する磁気ヘッド技術
(2)データを低ノイズ高信頼性で記憶する磁気媒体技術
(3)ヘッド、メディアの低浮上、トライポロジー技術
(4)高利得を得る信号処理技術
(5)高速回転技術
(6)高精度サーボ技術
などがある。このなかで、磁気ヘッド技術は、HDDの記録容量を飛躍的に伸ばす重要な技術である。アルプス電気を含め磁気ヘッドメーカー3社とHDD装置メーカーの一部が内作している。おおむね55%が内作比率である。
 以下に、この磁気ヘッドの市場動向、技術動向及び将来展望について述べる。

表1
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HDDの市場予測

◆磁気ヘッドの  市場、技術動向
 一般的にHDD用磁気ヘッドは、記録用薄膜ヘッドと再生用GMRヘッドで構成されている(図1)。この磁気ヘッドは、HDDのさらなる記録容量アップのために
(1)記録、再生側コアーの極小化
(2)再生側の単位トラック幅あたりのさらなる感度アップ
(3)データ転送レート向上のための記録ヘッドの周波数特性向上
(4)ヘッドと媒体間の間隙を下げることとトライポロジー改善
が技術的な流れとなっている。
 記録ヘッドは上部ポール、記録ギャップ、下部ポールとで構成され、それぞれ薄膜プロセスで形成される。従来は、フレームレジストを構成したあとメッキ法で上部ポールを形成、その後ポールトリミング工程で記録ヘッドのトラック幅を形成していたが、このポールトリミング工程によるとトラック幅の制御には限界があり、特に最近の高密度記録用には対応できない。このため当社は、積層メッキ法と呼ばれる工法とミリング法の組み合わせで一段と高精度のトラック幅を達成し実用化している(図2)。
 図3、4、5は、従来型ヘッドと当社のステッチ構造といわれるヘッドの構造の断面図である。これは浮上面に対し、垂直方向から見たもので、ギャップ部から発生する磁界強度の向上を図っている。また、媒体は高密度化すると一般的に熱揺らぎ現象が発生する。このため、記録磁化状態を安定化させるために、より保持力の高い材料を採用しており、磁気薄膜への記録がますます困難になってきている。
 このような媒体へ記録するために記録ヘッドは磁性材料の最適化が必要で、より強い、シャープな磁界を発生させる必要がある。
 当社では、これらへの対応のために上部ポール、下部ポールに対し飽和磁束密度の高い材料(1.9テスラ)を選定し実用化しており、さらなる飽和磁束密度の高い材料(2.4テスラ)も検討も行っている。
 一方、再生側ヘッドにおいては当社はCIP-GMR(Current In thePlane)と呼ばれるハードバイアス方式を採用している(図6)。
 一般的にCIP-GMR方式では下部シールドと上部シールドの約100nm以下の間隙に、上下にアルミナ系の絶縁膜をはさんでGMR積層部およびリード部、ハードバイアス膜部を形成している。GMR積層部は、反強磁性体層、ピンド層、フリー層などで構成されるが、当社においては、Seed層の上に当社独自開発の反強磁性体であるPtMnを採用し、ピンド層にはSFP(Syntetic Ferrimagnetic Pinned Layer)といわれるCoFe、Ruなどの材料を採用、フリー層にはCoFe/NiFeなどを採用している。また、MR比を上げるためにスペキュラー効果を持つTaOx系材料を利用し、界面での伝道電子スピンが鏡面散乱しMR比を上げる方式を採用。これらの技術を通してCIP-GMRの感度向上をめざしている。
 一部40GBモデルにおいてLOL(Lead-Overley)方式と呼ばれる方式が話題となったが、感度が向上するもトラック幅の制御が困難であり60GBモデル以上においては採用されていない。
 当社においては、これらの技術をもとにエクスチェンジバイアス方式といわれる反強磁性膜とフリー層間のスピン相互作用を利用した方式、あるいはSFF方式(Synthtic Ferrimagnetic Free L―ayer)と呼ばれるフリー層をさらに積層化させMR比をアップする方式、また、スペキュラー効果を利用し、ピンド層にもTaOx膜を挿入する方式など、各種方式でさらなる記録容量アップの検討を行っている。

  図1
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  図2
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  図3,4
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GMRヘッド構造図
記録ヘッドプロセスの比較
図3従来型のGMRヘッド,図4アルプス電気のGMRヘッド
  図5
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  図6
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GMRヘッドの構造断面図
CIP-GMR素子の積層


◆磁気ヘッドのさらなる記録密度向上にむけて
 現在は3.5”HDDにおいて、80GBが主流となっているが、各HDD装置メーカーは、次世代モデルとして、120GBあるいは160GBモデルの開発にしのぎを削っている。記録密度125Gbit/inch2(3.5”160GB)以上においては、上記のCIP―GMR方式では媒体信号の再生が困難となることも予想され、当社においては、現行方式であるCIP―GMR方式のさらなる構造、材料を含めた最適化の検討開発と、CPP―GMR方式(Current PerpendiculertothePlane)と呼ばれる膜面に垂直に電流を流す方式での検討開発を同時に進めている。
 このCPP―GMR方式にはTMRヘッド(Tunneling Magnet Resisteve)ヘッド方式と、GMR効果を利用した方式があり、電磁変換特性のみならず、生産における経済性も考慮した開発を行っている(図7)。また、長年大学及び各社のR&D部門において研究開発されてきた垂直記録も、長手記録による限界から脚光をあびつつあり、その可能性も想定されるため、垂直記録用の記録再生複合ヘッドの開発も行っている(図8)。
 当社では、蓄積した固有技術をベースに、HDD業界のたゆまぬ大容量化に対応すべくさまざまな技術革新を通してHDD業界の発展に貢献していくことを考えている。

図7
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  図8
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CPP素子TMR CPP-GMRの積層
垂直記録ヘッド試作品断面写真





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