三菱電機が弟3世代携帯電話の雑音抑圧技術を開発

資料:三菱電機

 三菱電機はこのほど、第3世代携帯電話に向けて携帯電話のマイクに混入する背景雑音を必要な音域を損なわずに抑圧する新技術を開発。標準機関である3GPPから要求条件クリアの承認を得たと発表した。
 携帯電話は使用場所によって背景雑音がマイクに混入するため、雑音混じりの聞きづらい音声が通話相手に送られることがある。このため携帯電話にはマイクから入力された音声に混じっている背景雑音をデジタル信号処理で抑圧するノイズサプレッサーが導入されている(図1)。一方で、昨年サービスインしたNTTドコモのWマイナスCDMA携帯端末FOMA(フォーマ)は、固定電話並みの音質が差別化の一つであることからノイズサプレッサーにはより高い性能が求められている。
 同社のFOMA端末1号機D2101Vには従来の携帯電話より優れた方式を搭載しているが、今回、より多様な条件の雑音に対応できる高性能ノイズサプレッサーを開発した。

図1
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全体構成


◆雑音抑圧技術
 現在使用されている携帯電話のノイズサプレッサーでは雑音レベルが大きい場合、音声と雑音との区別がつきづらく、雑音を抑圧しようとすると音声まで抑圧してしまうことがあるため、一定レベル以上の雑音は抑圧できなかった。
 同社では、「入力信号が音声でなく雑音である度合い(雑音らしさ)を求める雑音らしさ判定法」によりあいまいさを許した判定を行い、その雑音らしさに応じて雑音抑圧する量と雑音抑圧処理方法を適応的に制御(適応雑音抑圧制御法)することで、音声成分を保存して雑音のみを大きく抑圧することに成功した。
 このノイズサプレッサーは図2のような構成となっている。時間領域の入力信号をフーリエ変換で周波数スペクトル領域に変換し、最初に雑音らしさを推定したのち適応雑音抑圧制御部の処理に入る。適応雑音抑圧制御部では低域と高域で異なる処理を行う
 音声の周波数スペクトラムは低域の成分が大きく、高域の成分が小さいので雑音が混入しても低域の信号対雑音比率(SNR)は、高域に比べて大きい性質がある。従来のノイズサプレッサーは、雑音スペクトラムの形状に応じた抑圧量で帯域ごとにスペクトル振幅を減衰していたが、同社ではこれらの性質を利用し、低域では雑音スペクトルを減算することで、より大きく雑音を抑圧し、高域では従来のように雑音スペクトルの形状に応じてスペクトル振幅を減衰するようにした。このとき減算量や減衰量は先に求めた雑音らしさに応じて制御する。雑音らしさが大きい場合は大きく、小さい場合は小さく減算あるいは減衰する。
 新技術では、SNRの大きな低域でのみ雑音スペクトルの減算を行うので、音声スペクトルの特徴を損なわずに大きく抑圧でき、また雑音区間と音声区間を無理に区別せず「雑音らしさ」を指標に減算量や減衰量を段階的に制御するので、音声と雑音の区別がつきにくい大きな雑音でも音声区間を保存して雑音だけを抑圧できる。
 高速道路を走行中の自動車内や駅のプラットホームなど信号と雑音のレベル比が6dB以下という高雑音環境下でも音声の品質を損なわずに雑音を最大10dBに抑圧できる。

図2
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ノイズサプレッサーの構成


◆3GPPの評価試験
 第3世代携帯電話の標準化機関3GPPでは、第3世代携帯電話に適用するノイズ抑制(サプレッサー)に関しては一方式を選定して標準規格化せず、代わりに多種多様の背景雑音における音質に厳しい要求条件を設け、これを第3者による主観評価試験や客観評価試験においてすべてクリアした方式にEndorsementを与えることにしている。これはノイズサプレッサーの製品化に必須の要件ではないが、製品の信頼性を得るのに非常に重要である。今回開発した同社の方式は3GPPの性能要求条件をすべてクリアし、世界で初めてEndorsementを得た。
 3GPPのノイズサプレッサーに関する評価項目には、主観評価に関するものと、客観評価に関するものがある。主観評価は自動車走行雑音、雑踏雑音、人声雑音について異なる雑音レベルや異なるマイク感度などを想定し、多様な条件で評価する。
 主観評価を行う被験者への質問の仕方によって雑音抑圧量の大きさを評価する場合と自然性維持を評価する場合があり、評価項目は合計74項目にもなる。しかし、上記の理由から雑音抑圧量を大きくすると誤って音声を抑圧し、自然性を損なう可能性が高く、全項目をクリアするのは非常に困難であった。
 同社は、独自の高精度音声/雑音判定法と適応雑音抑圧制御法により問題を解決し、第3者による主観評価試験で2言語(日本語、英語)でそれぞれ全項目をクリアした。主観評価には24人の被験者による5段階評価の平均値を用いる。図3が主観評価結果の一例で、ノイズサプレッサーがあるほうが、ない場合より主観評価値が大きく改善されている。また、客観評価にはノイズサプレッサーを通った後の信号の歪みなど12項目があるが、これらもすべてクリアした。

図3
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雑音が混入した音声の主観評価結果の例



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