可視光センサーの技術

篠原久人:TDK(株)甲府工場パワーシステムズビジネスグループPVデバイス部




◆特  徴
 TDKの可視光センサーは、ホトダイオードと呼ばれる半導体素子の一種で入射する光を受けて電気を発生する。太陽電池と呼ばれる半導体素子もこのホトダイオードの一種で原理的にはまったく同じである。
 TDKの可視光センサーは、ICやトランジスター、ダイオードに一般に用いられている単結晶シリコン半導体ではなく、アモルファスシリコン半導体を用いていることが大きな特徴であり、具体的には以下のようなことがあげられる。
1)薄膜(〜1μ)の半導体である。
2)半導体材料としては、比較的低温(200度C以下)で製造が可能。このためガラスや耐熱性のあるプラスチックフィルム上に付着させて大面積のデバイスを作成することができる。
3)赤外領域の光にほとんど感度がなく、可視光領域の光に高感度である。
4)温度による電気特性の変動が単結晶シリコン半導体に比べて少ない。
 1)、2)の特徴は、製造方法がモノシランというガスを減圧容器の中で高周波の放電により分解し、ガラスなどの基板上に付着(堆積)させるプラズマCVDという方法によることに起因しており、材料であるシリコンを1000度C以上の高温で溶融し、単結晶のインゴットを引き上げて作る単結晶シリコンとは大きく異なる。
 このことは、大面積の半導体膜が比較的安価にできるというメリットにもなっている。
 3)、4)の特徴はアモルファスシリコンが単結晶シリコンのような整然とした結晶構造をもっておらず(このためアモルファスあるいは非晶質などと呼ばれる)大量の水素を含んでいることに起因している。
 これらのことからアモルファスシリコン半導体は、腕時計や電卓用の太陽電池や液晶ディスプレイのTFTの半導体層として広く使われている。
 このようなアモルファスシリコン半導体の特徴のうち3)の可視光領域の感度が高く、赤外光にほとんど感度がないという特徴を最大限利用したのがTDKの可視光センサーである。
 図1は、白色蛍光灯、白熱電球、太陽光のそれぞれの光のスペクトルとで単結晶のシリコンの光センサーおよびTDKの可視光センサーの感度を示している。図中の標準比視感度は、平均的な人間の目の感度を示している。
 波長550nm付近の光が緑、440nm付近が青、620nm付近が赤に相当し、標準比視感度の曲線より短波長側が紫外光、長波長側が赤外光である。
 単結晶シリコンを用いた従来のホトダイオードやホトトランジスターなどの多くは800nm付近にピーク感度を持っており、また、ピーク感度を600nm付近に持ったホトトランジスターも最近開発されているが、赤外光カット用の光学フィルターを内蔵していないものでは、例外なく1100nm付近までの赤外光に感度を有している。一方、アモルファスシリコンを用いたTDKの可視光センサーでは750nm以上の光にはほとんど感度がない。
 このことは明るさ(照度)をセンシングする場合、太陽光や白熱灯のような赤外光を多く含んだ光源とほとんど含まない蛍光灯のような光源の間で、同じ明るさでの出力差が小さくできることになり、赤外光カットのための光学フィルターを用いなくても誤差の少ない照度のセンシングが可能となる。
 TDKの可視光センサーの白熱電灯と蛍光燈での出力電流の違いの例を図2に示す。さらに、大面積の半導体膜を安価にできることから、受光面を広くとることが容易で、感度が受光面積に大きく比例するホトダイオードでは、単結晶シリコンに比べて感度が高くしやすい特徴もある。

図1
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  図2
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光源と光センサーの分光特性比較
白熱電球と蛍光灯での比較


◆構  造
 TDKの可視光センサーは、表面実装部品として設計している。その構造を図3に示す。半導体層であるアモルファスシリコン層は光の入射側からp型、i型、n型半導体層を積層しており、pin型と呼ばれるホトダイオードを構成しており、3層あわせても1μmにも満たない厚さである。電極やその他の層を合わせても1mmにもならず、全厚は、使用しているガラス基板にほぼ依存している。
 また、TDKでは全製品の鉛フリー化を進めており、TDKの可視光センサーも鉛フリーのハンダリフロープロセスに対応している。TDKの可視光センサーは、3.2mm×1.6mm×0.8mm tのBCS3216G1と5.0mm×3.0mm×0.8mm tのBCS5030G1の2品種を用意しており、その外形図を図4に示す。また代表的な特性を表1に示す。出力電流は標準値であるが、その同一光源下でのバラツキは±20%以内。BCS3216G1は、一般的な照度のセンシング向けで、BCS5030G1は特に受光面積を広く取りたい場合や、少しでも高い出力電流が必要な用途向け。

  図3
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  図4
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  表1
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可視光センサーの断面図
可視光センサーの外形図
TDK可視光センサーの代表特性


◆応用回路例
 TDKの可視光センサーのようなホトダイオードでは、端子間を短絡させたり逆バイアスを印加した場合に流れる電流が、照度に比例する関係があるため、この電流を電圧に変換してからコンパレーターやADCの入力とする。この電流電圧変換には以下の方法がある(図5)。
1)オペアンプを使って電流を電圧に変換する。
2)逆バイアスを印加して電圧を取り出す。
3)トランジスターで増幅する。
 この中でオペアンプの利用が一般的であるが、ホトセンサー以外に抵抗が一本あれば良いので逆バイアス印加の回路も良く使われる。その場合、後段の回路に流入する電流が図5の抵抗“R”に流れ込む電流よりも十分小さい必要があるが、ADCなどでは間欠動作で電流を吸い込むようなモードで入力インピーダンスが変化するものの場合は、吸い込み電流は大きくても瞬間的なため、抵抗“R”に適当なコンデンサーを並列に入れてやることで対応できる場合が多い。
 トランジスターによる増幅回路はホトトランジスターと等しい構成であり、大きな出力電流が得られるが、トランジスターのHfeのバラツキに出力電流が依存してしまうことに注意する必要がある。特に、後段で大きな出力電流を要求する場合は別であるが、TDKの可視光センサーを利用する場合、ホトダイオードとしては比較的高い出力電流が得られること、特に10000Lux以上の出力電流の直線性が改善されることから、逆バイアス印加回路にする回路構成にメリットが大きいと考えられる。

図5
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照度検出回路の例


◆用  途
 TDKの可視光センサーは、その可視光領域で感度が高いこと、赤外光にほとんど感度がないこと、受光面の大型化が容易なこと、表面実装部品であることなどから以下の用途が考えられる。
1)液晶ディスプレイの照明調整(バックライト、フロントライト制御)
2)携帯電話などのキイバックライトの自動点灯
3)ビーム位置のセンシング(CRT式プロジェクションTVの画像調整、レーザービームのスポット位置検出)
4)テレビの輝度調整
5)カメラの露出調整用。


◆最 後 に
 有機ELディスプレイ、白色LEDを照明に使ったフルカラーアクチブ液晶ディスプレイなどの高機能ディスプレイなどが携帯端末を中心に主流になりつつあるが、それにともない消費電力の増大が大きな問題となってきている。画素開口率の向上、EL素子あるいは白色LEDの発光効率のアップ、燃料電池の採用など検討すべき手段は多くあるが、そのひとつとして光センサーを用いて環境照度にあわせて照明制御を行うことは、比較的容易に行えしかも確実に省電力が行えた上に、表示品質も向上することから、今後採用例が増えていくものと考えられる。
アモルファスシリコンのホトダイオード自体は以前から存在していたが、このような目的にはサイズが大きかったり鉛フリーハンダに未対応のものがあったりと、必ずしも使いやすいものばかりではなかったが、TDKの可視光センサーは、そのような点でも配慮された使いやすいものとなっていると考えている。




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